大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和58年(行ウ)38号 判決 1989年8月28日

神戸市垂水区星陵台5丁目4番12号

原告

澤田恒人

右訴訟代理人弁護士

高橋敬

深草徹

神戸市須磨区衣掛町5丁目2番18号

被告

須磨税務署長 小林博

右訴訟代理人弁護士

兵藤厚子

右指定代理人

岡田淑子

外5名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は,原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

一  被告が原告に対し昭和57年3月2日付でなした原告の昭和53年分,同54年分,同55年分の各所得税の総所得金額をそれぞれ金4,369,071円,金1,799,436円,金6,803,369円とした更正処分のうち金1,600,000円金1,550,000円,金1,800,000円を超える部分並びに昭和53年分の過少申告加算税を金20,800円,昭和55年分の過少申告加算税を金44,700円とした賦課決定処分をいずれも取り消す。

二  訴訟費用は,被告の負担とする。

との判決

(被告)

主文同旨の判決

第二主張

〔請求原因〕

一  原告は建設資材の販売,運搬,建設工事業を営み,いわゆる白色申告者であるが,法定申告期限までに,被告に昭和53年分,昭和54年分,昭和55年分(以下「係争各年分」という。)の各所得税について,確定申告したところ,被告は,昭和57年3月2日付でこれに対して各更正及び各過少申告加算税の賦課決定処分(以下各更正を「各更正」と,各賦課決定を「各決定」という。)をした。原告の確定申告,被告の各更正,各決定,原告の異議,国税不服審判所長の裁決の経緯は,別紙「申告・更正等の経過」記載のとおりである。

二  しかし,被告のなした各更正のうち確定申告に係る所得額を超える部分はいずれも原告の所得を過大に認定した違法なものであり,したがって,各更正を前提としてなされた各決定も違法である。

よって,各更正,各決定の取消しを求める。

(被告)

〔請求原因に対する答弁〕

1項の事実は,認める(ただし,原告は,建材販売業を営むものである。)。2項の主張は,争う。

〔被告の主張〕

一  原告の昭和53年分,同54年分,同55年分の各年分の事業所得金額はそれぞれ10,484,894円,2,496,684円,9,721,371円であるから,その範囲内でなされた各更正及びこれを前提とする各決定は,適法である。

1 係争各年分の事業所得及びその算出根拠は,左のとおりで,その売上金額の内訳は,別表一ないし三「(係争各年分の)売上金額明細表」記載のとおりであり,同業者所得率は,後記の方法で算出したものである。(次頁掲載)

2 右1④の特別経費の内訳は,次のとおりである。(次頁掲載)

(一) 地代家賃

原告が神戸市垂水区南多聞台2丁目所在の資材置場の借料として柏木耕二に対して支払をした分である。

(科目) 昭和53年分 昭和54年分 昭和55年分

①売上金額 91,810,612円 65,484,763円 65,417,709円

②同業者所得率 14.04% 15.67% 18.70%

③算出所得額 12,890,209円 10,261,462円 12,233,111円

④特別経費 2,005,315円 7,764,778円 2,511,740円

⑤事業専従者控除 400,000円 - -

⑥事業所得金額 10,484,894円 2,496,684円 9,721,371円

科目     年度

昭和53年分

昭和54年分

昭和55年分

①地代家賃

960,000

1,040,000

1,440,000

②利子割引料

1,045,315

870,778

1,071,740

③貸倒損失

0

5,854,000

0

合計(①+②+③)

2,005,315

7,764,778

2,511,740

(二) 支払利息 明細は,次表のとおりである。

支払先

昭和53年分

昭和54年分

昭和55年分

①日新信用金庫

垂水支店

1,045,315

861,097

1,071,740

②太陽神戸銀行

舞子台支店

0

9,681

0

③合計(①+②)

1,045,315

870,778

1,071,740

(三) 貸倒損失

株式会社成光建設に対する昭和54年分の貸倒損失は5,854,000円である。

3 右1⑤の事業専従者控除額は,原告が昭和53年分の所得税の確定申告書に記載した金額である。

二  推計の必要性について

原告が提出した係争各年分の所得税確定申告書は,所得金額は記載されていたものの,所得金額の計算の基礎である収入金額及び必要経費の記載を欠く極めて不十分なものであった。

被告の部下職員は,原告の係争各年分の所得金額の調査のために昭和56年8月27日以降9回にわたって原告方を訪れ,原告に係争各年分の事業所得の計算の基礎となるべき帳簿書類の呈示及び事業内容の説明を求めたが,原告は,調査に協力しなかった。

被告は,右のような原告の態度から,その協力を得て係争各年分の事業所得の金額を実額計算により算定することは不可能と判断し,やむを得ず,原告の取引先等の反面調査により得られた資料等に基づき推計によってその所得金額を算定し,各更正及び各決定をした。

三  推計の合理性について

被告が原告の係争各年分の所得金額の算出にあたり用いた同業者所得率の基礎となった同業者は,原告の事業所在地を管轄する須磨税務署とこれに隣接する兵庫,長田,明石の各税務署の管内で原告と同種の建材販売業を営んでいる個人事業者のうち,青色申告書を提出していて,係争各年分において次の1ないし6のすべての条件に該当する者という基準で選定したが,後記の別表1ないし3のとおり10名存在した。

1 建材販売業を営んでいること。

2 1以外の事業を兼業していないこと

3 年間を通じて継続して事業を営んでいること

4 年間の売上金額が1,000,000円から140,000,000円までの範囲内であること

5 須磨・兵庫・長田・明石の各税務署管内に事業所を有すること

6 不服申立又は訴訟継続中でないこと

右の基準により選定した同業者は,業種,事業場所,規模等において原告と類似性を有し,しかもその申告の正確性について裏付けを有する青色申告者であるから,選定基準には合理性がある。

そして,これら同業者の係争各年分の青色申告書に基づき作成したのが別表1ないし3「同業者算出所得率一覧表」であり,各業者の所得率を平均して同業者所得率を算出したものである。

(原告)

〔被告の主張に対する原告の認否〕

1項中,地代等の特別経費の控除は認めるが,その余はすべて争う。但し,特別経費中,被告主張の貸倒損失は,損失の一部として認める(後記反論の四のとおり。)。

なお,別表一ないし三「(係争各年分の)売上金額明細表」記載の取引先,取引高についての各別の認否は,同表の原告主張額欄記載のとおりで,この結果,係争各年分の原告の認める売上額は,昭和53年分が88,053,301円,昭和54年分が59,961,183円,昭和55年分が59,422,019円となる。

2項の推計の必要性,同3項の推計の合理性の主張は,争う。

〔反論〕

一  被告の部下である岡野学は,事前通知をしないで税務調査に訪れ,原告が要求したのに調査理由を明らかにせず,直ちに反面調査を開始して原告の取引先を失わせた。このような不当な行為による本件推計課税は,必要性を欠いている。

二  零細業者である原告にとって営業を維持するのが精一杯で,記帳をする時間的余裕はなく,経費の実額は納税者自身が一番よく分かっているなどというのは机上の空論に過ぎない。

原告は,本件審理の過程で,これまで自覚的に省みることのなかった自己の業態について整理,再確認したところ,原告の営業は,建築資材のうちの砂,砂利,栗石等の骨材の販売,運搬,建設工事であり,各業務はそれぞれ原価率,経費率が異なり,また,取引の中には名義貸し,立て替えた残土処理代の返還金のように利益のないものもあること,売上高の内,建材販売分は,昭和53年は原告が直接販売した分が35.4%,下請けに販売を回した分が0.77%,昭和54年は原告直販分が50.4%,下請けに回した分が0%,昭和55年は原告直販分が42.0%,下請けに回した分が9.3%と,その占める割合は大きくないことが明らかとなった。

三  他方,被告が選定した同業者は,適正に同業者を抽出しましたとの課税庁職員の供述があるだけで,選定の妥当性につき被告以外の者は検証する手段を封じられている。このようなことを容認するのは,行政の違法を是正するという行政事件訴訟制度の趣旨をまったく没却するものである。

被告主張の同業者所得率は,次のとおり誤った前提に立ち,原告の営業実態とは異なる業者を同業者として選定しており,課税の根拠となりえないものである。

1 永久に繁栄する同業者という虚妄

被告の選定した同業者は,いずれも著しく高水準の所得をあげているものばかりで,景気の浮沈,運不運,技量等のために永年にわたって赤字を計上する者,低水準の所得に甘んじる者,倒産する者の存在が考慮されていない。

右のような者は数年にわたる継続がないから抽出されないとの弁解もあろうが,長期にわたる営業不振の末,倒産,休廃業する者があるのは実経済社会において常識である。したがって,被告の主張する同業者所得率は,我国の経済社会が永久に繁栄を続ける企業から成り立っているという虚妄のうえにのみ成立つ議論である。

2 原告は被告主張の同業者に該当せず,その同業者所得率に合理性はない。

被告は,原告が確定申告書の職業欄に「建材販売業」と記載したことをもって,原告が建材販売業を営んでいるとしたうえ,「他の事業を兼業していないこと」を要件として同業者を選定している。しかし,原告は,建材販売業のほかに運送,建設工事業を営んでおり,被告の選定した同業者の範囲には入らない。

さらに,建材の種類も合板,新建材,不燃・断熱・結露材等多種多様で「建材業,建材販売業」とひと括りにはできない。また,砂利等の販売では現場まで商品を運搬するが,その場合,自己の車両で運搬する場合と運送業者に委託する場合とでは商品代金は同じでも経費は異なる。したがって,車両設備の有無,多少により経費率(所得率)が異なることになり,これらの点を検討しないと同業者でも業態の類似を語れない。

右の点は,運搬についても同様で自己の車両で営業をするのと業者に委託して運送するのとでは業態が異なり,所得も異なる。さらに原告の取引の中に利益がないものがあることは前記のとおりである。

このように原告の業務は複雑であるのに,被告は主たる業務の占める比重,割合,それが業態にどのように変化を与えるかについて具体的調査をせず,この点からも,被告の採用した推計には合理性がなく,その同業者所得率は,課税の根拠となりえない。

3 著しく恣意的な操作が行われている疑いが濃い。

被告は,同業者選定の要件を売上額が10,000,000円から140,000,000円の者とし,その他の者を除外したが,合理的根拠がない。推計課税の適法性が問題となった別の事件では被告は当該納税者の売上額の倍・半分方式による業者選定の妥当性を強調している。

また,これらの同業者について,前記のとおり,その実在と所得の真実性を検証する資料はなんら明らかにされていない。原告の必死の調査の結果,一業者が明らかになり,その昭和55年分青色申告決算書を入手することができたが,その業者の所得率は,被告の主張では9.73%となっているが,右決算書からは5.9%しか算出されなかった。

四  原告は訴外成光建設と材料の販売,ダンプの貸付け,人夫の派遺などの取引を毎月20日締め,翌月15日決済の約でしていて,決済は現金と手形が半分ずつであったところ,同訴外人は,昭和54年8月末日不渡りを出して倒産した。原告は同年7月20日までの決済は受けていたが,その後の決済を受けることができず,約束手形5,850,000円と売掛金1,650,000円が貸倒れになった。

第三証拠

証拠関係は,本件記録の書証目録欄,証人等目録欄記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  原告が,建材の運搬,建設工事業を営むか否かは別として,建材販売業を営むいわゆる白色申告納税者であること,被告が各更正及び各決定をしたことは,当事者間に争いがない。

二  被告は原告の係争各年分の所得金額を推計により算出し,これに基づいて各更正等の適法性を主張するので,この推計課税について検計する。

1  推計の必要性について

成立に争いのない乙第1ないし第3号証,証人岡野学の証言,原告本人尋問の結果によれば,次の事実が認められる。

原告の提出した係争各年分の所得税確定申告書は,所得金額の記載(昭和53年分について所得金額と専従者控除額)があるだけで,収入金額や必要経費等の記載はなかったこと,被告の部下である岡野学は,原告の係争各年分の所得を調査すべく,昭和56年8月27日に原告方を訪れ,関係帳簿書類等の呈示を求めたところ,原告はこれに応じず,「帳簿はつけていないし,昭和53年分,昭和54年分の請求書,領収書類は破棄した。昭和55年分は残っているので整理したうえ見せるが整理に今年いっぱいかかる。確定申告書の所得金額は生活実感に基づいて記載したが,貸倒れがあり,業績が悪いのに調査は納得できない。」との趣旨を述べたこと,

これに対し,岡野は,確定申告をした昭和55年分の所得の関係資料の整理に昭和56年末までかかるというすはおかしい,早急に請求書等の原始記録や当座預金口座を整理しておいて貰いたい旨を告げてこの日は帰庁したこと,

同年9月14日に原告は民主商工会の事務局員と一緒に,須磨税務署を訪れ,調査を中止するように求め,これが容れられないのであれば請求書等の整理の必要があるので今年いっぱい待つよう要求したこと,

岡野は,原告の右のような態度から,調査について原告の協力は得られないと判断し,過去の資料に基づいて原告の売掛先に照会をするいわゆる反面調査を始めたところ,同月30日に原告方に呼ばれ,原告並びに民主商工会の事務局員から反面調査を中止するように要求されたこと,

その後も岡野は原告の協力を得るべく,翌57年2月3日まで7回にわたって原告方を訪れ,不在の際には「連絡をして貰いたい。」とのメモを残したが,原告からの連絡はなく,電話をしても,雨で仕事のない日に訪ねて貰いたいとの返答で,同56年11月30日に会えただけであり,この時も,原告は,被告が反面調査をしたから調査に協力できないとの態度であったこと,

被告は,反面調査により,昭和57年2月10日頃までに原告の売上高を算出したが,経費については実額を把握することができなかったので,同業者を選定して推計により原告の所得を算出したこと,

なお前記のとおり,原告は,調査の際に昭和53年,同54年分の原始資料は一切ないと回答したが,実際は,原告発行の取引の相手方に対する請求書の控えや取引先から受領した領収書の一部を残していること。

右認定事実からすると,被告が各更正等をするに際し,原告に原始資料の呈示を求めたのに,原告は正当な理由なくこれを拒否したと認められ,被告に反面調査をし,推計により所得を算出する必要があったことは明らかである。原告は,被告から調査の事前告知,調査の理由の説明がなく,被告が直ちに反面調査に着手したことをもって,被告の調査手続は違法であると主張するが,これらは税務職員の合理的な裁量に委ねられているところ,右認定事実からすると,被告部下職員のとった措置に違法な点があるとは認められない。

2  推計の合理性について

課税庁において一定の事業を営む者の所得金額を実額によって把握できない場合に,同種経費を支出するのを通常とする同業者の平均所得率でその所得額を推計するのは,やむを得ぬ処置であり且つ合理性があるといえる。

右の場合,当該納税者と売上額等の営業規模,営業品目,立地条件その他の営業実態の類似点が多い業者ほど,またそのような業者を多数選定するほどその平均所得率は実態と合致し,推計は客観性を有するであろう。しかし,当該業種を営む者が多ければ容易に多数の類似の業者を抽出することができるが,そうでないと抽出し得る業者は限られるので,基礎件数を確保して平均値が偏らないようにするために抽出の基準を拡大せざるを得ない。

原告は,別の推計課税による更正処分の事件で採用された同業者の売上高の基準が本件と異なることをもって本件での推計が合理性がないと攻撃するが,右に説示したように,売上高の抽出基準が異なるからといって直ちに推計課税の合理性がなくなるわけではない。

また,営業実態のうち,当該納税者の協力がなければ明らかにならないような営業品目等の営業内容については,当該納税者が明らかにした程度に応じて業者の選定が異なることになるのもやむを得ない。

本件においてこれをみるに,証人西野但の証言により成立の認められる乙第4ないし第7号証の各1,2及び同証言によれば,前記のとおり,原告からその所得の実額を把握するための資料の提出がなかったので,被告は推計により原告の所得を算出することとし,大阪国税局長の一般通達(大局直訟第654号)により,原告が事業を営む須磨とこれに隣接する兵庫,長田,明石の各税務署長に,各管内において,原告と同種の建材販売業を営む個人事業者のうち,青色申告書により所得税の確定申告をしている者で,係争各年において他の業種を兼業していないこと,年間を継続して事業を営んでいること,年間の売上げが10,000,000円から140,000,000円までの範囲内であること,不服申立,訴訟継続中でない者,という基準に該当する同業者の選定を依頼したところ,別表1ないし3「同業者算出所得率一覧表」記載のとおり,係争各年について須磨の管内に2名,兵庫に4名,明石に4名の該当者があったこと,これら同業者の青色申告書により,売上金額から売上原価,外注費・雇人費の一般経費を差し引いた算出所得金額,所得率,さらにこの所得率の平均は右各表に記載のとおりであったことが認められる。

被告は,右の方法で算出された平均所得率である同業者所得率を売上高に乗じて係争各年分の原告の所得額を推定しているところ,被告が設定した同業者の選定基準は,その選定にあたって恣意の介在するものでなく,事業所の近接,事業規模の近似を考慮したうえ件数を確保しているといえる。

これに対し,原告は,取引の相手方からの領収書は保存してあると供述しながら,経費の実額を立証しょうとせず,専ら,被告が選定した業者と原告とは業種が異なることをもって被告の推計の合理性を非難する。すなわち,原告は建築資材である砂,砂利,栗石等のいわゆる骨材の販売をしているが,運送,建設工事をも業としており,被告が同業者として選定した建材販売業者と業種の近似性がないと主張し,自己の営業実態を明らかにするとして,取引の相手方に対する請求書の控えである甲第6ないし第37号証(枝番の摘示は省略する。以下同じ。)を提出し,これら請求書の控えは建材の販売以外の取引に関するものの全部であるとの趣旨の供述をする。

なるほど,成立に争いのない甲第39号証,第41ないし第43号証,原告本人尋問の結果によれば,原告は,昭和49年から一般建築業の許可を受け,ダンプカーやユンボを所有していることが認められる。そして,右甲第6ないし第37号証には,右車両あるいは他から借り受けてきた同種の車両を貸与したり,運転手と共に派遺して運送に従事させた取引の請求,残土処理代の請求,工事代金の請求の記録がある(原告が前記のとおり税務調査を担当した岡野に対し,昭和53年,同54年の原始書類は破棄したと述べたことからすると,この甲号各証の成立については疑問なしとしないが,証人宮川良介の証言により成立の認められる乙第22号証,第23号証の1,1,第24号証によれば,これら甲号各証の一部は,異議申立の段階で提出されていたことが認められ,このこととその記載内容からして,真正に成立したものと認める。)。

しかし,原告は,建材による売上げが昭和54年が50%程度で,昭和53年,同55年は50%を下回るとの主張は感覚的なもので具体的根拠はない旨供述し,右甲号各証の請求書の控えにも,かなりの割合の栗石,マサ土,砂利等の売却代金の請求の記載がある。前記甲第8,第27,第36号証には,大口取引先である奥村組土木興業株式会社との運送の取引の記載があるが,原告本人尋問の結果によれば,これは専らアスファルトの運送であったことが認められる。また,建設工事については,前記甲第11号証により,昭和53年中に大林道路株式会社から2,3の工事を請け負ったこと,前記甲第17号証により,同年中に株式会社成光建設の下請工事に土工を派遺したことが認められる程度で,他に建設工事を請け負ったことの証拠がない。

一般に,建設資材ことに砂利等の骨材の販売には,商品の性質上,運送が付随すると窺われるところ,成立に争いのない甲第1ないし第3号証,乙第29号証によれば,原告は確定申告書に自己の業種を建材販売業と記載したこと,審査請求の手続において,運搬,建設工事が営業のかなりの部分を占めるとの主張をしなかったことが認められ,これらの点を併せ考えると,原告の営業は,建材の販売を主としており,運搬等はこれに付随するものと考えられるから,被告が原告の営業を建材販売業として同業者を選定したのは,相当と認められる。

原告は,建材にも多種あり,原告は専ら砂,砂利,栗石等の骨材を販売しているのに,被告は十把ひとからげに建材販売業として同業者を選定しているとか,また原告の売上げの中には残土処理代や名義貸しなど利益のない取引によるものもあるのにこれらを考慮していないので,被告の採用した所得平均率には合理性がないと主張するが,砂,砂利等の骨材を販売する業者も建材販売業者ということに変わりはなく,原告本人尋問の結果によると,これらの業者も一般に建材販売業者ということが窺えるし,また,残土処理代,名義貸しについては,後記のとおり原告にのみ生じる事情とは認められない。

なお,原告は,被告が右青色申告者の申告書を作為していると主張,供述し,その旨を記載した甲第38号証を提出するが,具体的根拠があるわけでなく,採用することができない。

三  そこで原告の売上額について検討する。

1  原告が取引の存在,取引高に関する被告の主張を争っていない分は,別表一ないし三「(係争各年分の)売上金額明細表」にその旨記載してあるとおりである。

なお,原告は,右取引の中には実質は立替金の返還である残土処理代や,原告が取引の名義人となっているだけで利益のない取引が含まれていると主張,供述する。営業活動にまったく利益がないとは考え難いが,仮にそうだとしても,いずれも建材販売業に付随してなされた取引であるから,所得率の算出過程でその点は経費として考慮されていることになる。すなわち,残土処理は一般に骨材の販売に付随するものであるし,名義貸しについては,原告本人尋問の結果により,建材販売業者がそのような取引をすることは少なくないことが認められるから,原告に特有の事情とはいい難い。のみならず,公文書であって成立の認められる乙第31号証,作成の形式,趣旨から成立の認められる同第32号証からすると,この種の取引についても,原告は手数料を取得して利益をあげていることが推認される。したがって,原告の取引高を計算するについて,原告主張の右の各点を別異に考慮する必要はない。

2  別表一ないし三「(係争各年分の)売上金額明細表」記載の取引の内,原告が取引の存在あるいは取引額を争っている分についての判断は,以下のとおりである(なお,以下に摘示する甲号各証は,いずれも前記のとおり成立が認められ,乙号各証は,官公署作成部分の成立は明らかであり,その余の部分については,証人西野但,同宮川良介の各証言,作成の趣旨,形式,弁論の全趣旨により成立が認められる。そして,甲,乙各号証が括弧内に記載してあるのは,その書証によって被告主張どおりの取引額が認められるという趣旨である。)

また,以下の取引にも,原告が名義貸しで利益がないと主張,供述する取引もあるが,前記のとおりすべて通常の取引と別異に考える必要はない。

イ  別表一「昭和53年分の売上金額明細表」につき,

番号6開発土木株式会社(乙第8号証)

番号8奥村組土木興業株式企社(乙第15号証の1)

番号同17株式会社森川工務店(乙第9号証)

番号19株式会社二浦組(甲第10号証),

同20沼田建設工業株式会社(甲第12号証),

同26大進建設(甲第14号証)

原告は,値引をしなければならないことが多く,請求額どおりの支払を受けることができなかったと供述するが,その点を明らかにする資料を提出しないから,右供述は採用することができない。

番号27茂広組株式会社(乙第22号証)

番号34金子建工(乙第20号証)

原告は,300,000円の入金があったことは認めながら,貸付金の返済である旨主張,供述するが,乙第30号証に照らして採用することができない。

番号35森田土木(乙第35,第36号証)

番号40馬田工務店(乙第10号証)

ロ  別表二「昭和54年分の売上金額明細表」につき,

番号2日下部西部明舗建設共同企業体(乙第11号証)

番号5奥村組土木興業株式会社(乙第15号証の2)

番号6西浦建設株式会社(乙第40号証)

番号9大林道路株式会社(乙第12号証)

番号10天橋組(乙13号証の1)

番号11兵庫県建材商業協同組合(乙第14号証)

番号12二村組(乙第23号証の2)

番号19大進建設(乙第23号証の1)

番号23大友組(甲第25号証,乙第23号証の1)

番号24兵庫奥栄建設株式会社(乙第19号証)

番号25北浦建設株式会社(乙第21号証)

原告は,北浦建設と取引したことはなく,乙第21号証に見られる同社の手形入金は本間土建の依頼で割引いたものであると主張するが,乙第37ないし第39号証に照らして採用することができない。

番号29川本浩二(乙第21号証)

原告は,これは大友組から受領したものであって,川本に対する売上げでないと供述するが,甲第25号証の1に照らして採用することができない。

番号32小泉組(甲第21号証)

番号33シラサキトミカズ

原告は,これは,立替金の返済だと主張する。疑問がないではないが,金額に鑑み,原告の主張どおりと認め,取引代金から除くこととする。

番号35株式会社北神砕石(乙第23号証の2)

番号36山良建材(乙34号証の1)

ハ  別表三「昭和55年分の売上金額明細表」につき,

番号5株式会社山田工務店(乙第21号証)

原告は,山田工務店との取引はなく,同社の手形入金は本岡土建の依頼で割引いたものであると主張するが,乙第37号証に照らして採用することができない。

番号6奥村組土木興業株式会社(乙第15号証の3)

番号7有限会社富士原組(乙第18号証)

番号10天橋組(乙第13号証の2)

番号19大進建設(乙第24号証)

番号21有限会社山根建材店(乙第33号証)

番号22大友組(乙第24号証)

番号23松本組(甲第33号証)

番号28本岡土建(甲第35号証,乙第24号証)

番号30日本建機株式会社

乙第20,第26号証により,被告主張金額の入金があったことは認められるところ,原告は,相手方から車の修理代の賠償を受けたものである旨供述する。これを疑う事由はないので,取引代金から除外することとする。

番号36ヤナギ(乙第20号証)

番号37住野富雄(乙第21号証)

番号38山良建材(乙第34号証の2)

四  以上の認定事実から係争各年の原告の取引金額の合計は,昭和53年分については,別表一「昭和53年分の売上金額明細表」どおり認められ,昭和54年分は,別表二「昭和54年分の売上金額明細表」の内「シラサキトミカズ」の6,800円を差し引いた65,477,963円,昭和55年分は,別表三「昭和55年分の売上金額明細表」の内「日本建機株式会社」の66,500円を差引いた65,351,209円となる。

右各売上高に前記の同業者所得率(別表1ないし3「同業者算出所得率一覧表」を参照)を乗じて算出した係争各年の所得額は,昭和53年が12,890,209円,昭和54年が10,260,396円,昭和55年が12,220,676円となる。

五  次に貸倒損失金について検討するに,訴外成光建設株式会社が昭和54年8月末に倒産したことは争いのないところ,原告は同訴外会社に対して7,500,000円の債権を有していたが,証人宮川良介の証言により成立の認められる乙第27号証によれば,原告は内1,646,000円については回収していることが認められるから,貸倒損失金は,被告の主張する5,854,000円であるということになる。その余の控除されるべき特別経費額については当事者間に争いがない。

前記算出所得額からこれら特別経費,昭和53年分については事業専従者控除をした事業所得金額は,別表四「事業所得金額の計算」記載のとおり昭和53年分が10,484,894円,昭和54年分が2,495,618円,昭和55年分が9,708,936円でいずれも被告の更正額(別紙「申告・更正申告等の経過」を参照。)を上回っている。

六  そうすると,推計課税の方法により被告がなした各更正及び各決定に原告主張の違法はなく,ほかに違法事由の主張立証はないから,本訴請求は理由がない。

よって,本訴各請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 岡部崇明 裁判官植野聡は転勤のため署名押印することができない。裁判長裁判官 林泰民)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例